トレーニングジャーナル会談 本文へジャンプ

トレーニングにおける測定と評価


年に何回の測定をするか

長澤:現在測定をしているのは早稲田大学の水泳部のみです。年に3回測ります。シーズンが10月に始まるので最初は12月、トレーニング進捗状況を見たいというものです。2回目は日本選手権の前、3月下旬あたりです。そして、3回目はインカレの前、合宿の日程にもよりますが8月の上旬や旬に行います。本格的に測定をしているのは、2回目、3回目です。最初はトレーニングを中心にしていて、実際に挙上するウェイトも8RM10RM程度の強度ですので、最大筋力の記録はおそらく出ないので、8〜10RMで測定します。そこから最大とを推定をして、次回の測定ではその数値を目指しましょう、という形です。この最初の測定では柔軟性やアライメントの項目も入れます。3月と8月は筋力とともにパワーが必要な時期なので、測定としては筋力はベンチプレスとスクワットの1〜5RMのやりやすいところを選んでもらっています。女子選手の場合は1RMでは全然記録が出ませんので、5RMくらいで数値を出していきます。それから、水泳の特性を考えて10RMもやっています。パワーの測定としては、プルオーバーメディスンボールスローを行います。下肢は垂直跳びを計測します。筋持久力として、30秒間の腹筋を行っています。これも足首を固めるのと固めないものの2つをやります。固めてないと全然上がらなくて、固めるといきなり上がってくる選手がいて、そういう場合は腰痛を持っていることがわかります。あとは形態測定をしています。写真撮影をしてモチベーションを上げるようにしたりしています。インボディでの身体組成測定や周囲径測定も学生マネージャーにデータをもらっています。監督さんの理解がありますので、非常にやりやすいです。

小平:測定の項目や内容は時期によって変えるのですか?

長澤:12月はトレーニングの進捗状況を見るのでベンチプレスとスクワット10RMのみです。あとは柔軟性とアライメントをみていきます。

最大筋力も当然必要となってきますし、水泳短距離で20数秒程度と、ミドル的な要素も必要なので10RMは必ず入れています。50mメインの選手では技術もしっかりしているのでスナッチ1RMを測定します。その他のグループはトレーニングでは5RM程度まで行いますが、測定ではスナッチは行いません。

プロボクシングの場合は月に1回、プロ選手は集合ロードワークをします。4回戦の選手だったら1000mを4本、10回戦の選手だったら10本のタイムを残しておきます。1本が1ラウンド相当ですから、走り終わった瞬間の心拍数と、1分後の心拍数を比べてみると、ラウンド間でどれほど心拍数が落ちるかを見ることができるのです。乳酸値を測るときっと面白いでしょうね。

フィットネス系であれば、アライメントチェックになります。早稲田大学の選手の中には強化選手がいるので、JISSでパワー系の測定としてスナッチやクリーンをフィットロダインを使用してデータを取っています。

測定側で左右される要因

長澤:測定はある意味イベントのようなものですから、モチベーションを上げていくことが重要かなと思います。試合に強い選手は、そういう一発勝負が好きだったりします。「緊張感がレースに似ている」と言ったりします。

普段のトレーニングを見ているといいのに、測定になると落ちてしまうとか。レースになると元気がなかったり。性格はありますね。

モチベーションの持たせ方

長澤:全体の数値の中で、偏差値を出してチーム内の5段階評価を出したりします。レーダーチャートでフィードバックするのですが、筋力はさほどではなくてもパワーが高いという特徴が出たりします。また、過去のデータを蓄積していくことで、選手によっては非常に小さいレーダーチャートになってしまっても、右上がりに成長しているということがわかるようにしています。どこかいいところを探しています。負けず嫌いの選手であれば悪いところもどんどんみせてよいと思いますが、おとなしい選手だといいところを見せないとモチベーションが下がってしまうかなと。

新入生ではよく言われますが、ウェイトトレーニングを始めて筋力が上がってきます。筋肥大期はパフォーマンスが落ちるじゃないですか。そこで、選手は「ウェイトトレーニングをすれば筋力が上がる」という認識があると思うのですが、そこで筋力が上がっていながらパフォーマンスは落ちている、もしくは維持程度というときにモチベーションを持たせるのが非常に重要なのかなと思います。筋肉の使い方が根本的に違うので、「この時期は必ずパフォーマンスが落ちるんだよ」という説明はします。それでも実際にそういう事態に直面すると、選手は「トレーニングが合っていないんじゃないかと思うんですが」とくるのです。そのときには、「今はエンジンが大きくなっているときだから、そのエンジンをうまく使うようなトレーニングをしなくちゃいけない」と言うのです。それが水泳だったら基本のスイムの練習だし、あとは水泳の場合はドライランドトレーニングといって陸上トレーニングもするのです。メディスンボールであったり、ジャンプ系トレーニングをして身体の使い方を覚えていって意識を高める。「ただ出されたものを適当にやっているんだったら筋力が上がっていてもパフォーマンスが出ない可能性があるよ」と言います。それはここ数年、毎年出るんですね。ある程度レベルが高くて感覚を持っている選手は、筋力が上がってくると落ち込むというパターンがあります。そこでモチベーションを下げさせずに取り組んでいくと2年生の後半や3年生くらいにポンと上がってくる傾向があります。

パフォーマンスが悪くて筋力が出るというのは、そうだと思います。一般レベルの選手は筋力を上げることでタイムは上がる可能性があります。筋肥大のトレーニングであっても。でもレベルの高い選手はそこでは反応が出なくて、ピンポイントの指導やエクササイズを合わせていかないと駄目なのかなと感じます。

イメージを捉えるのが大変なんですね。こちらがそのイメージを持てないので。トレーニングをしていて、「ターンのときのキックの感覚で、ここにブレがでてくるのですがどうしたらよいですか」と聞かれても、それはちょっと難しすぎるぞと。

そういう場合はもっと話を聞いてできる限りイメージを持てるよう努力します。できることなら自分でもその動作を実際に行ってみます。

ただ、アスリートのレベルが上がるほど、そのトレーニングで強くなったりタイムが上がるという実感があればどんな苦しいことでもやってくれるなあ、と思います。逆にトレーニングが外れた方向であったり、自分に合わないと思ったら、男子の場合はそっぽを向くというか自分でアレンジしてしまうのかなと思います。

ウェイトトレーニングを1カ月やったくらいで、選手は「効果出ないな」と思っちゃうようです。最初に説明しても駄目なんです。これがイコール、パフォーマンス向上ではないよと言っても。自分以外に押し付けたいところもあるのかもしれませんが。

基本的に50m100200m400m以上という3つのグループに分かれます。50mメインの選手は、年間を通してウェイトトレーニング週に3回です。100200mの場合は週2回もしくは3回で、400m以上の選手は週2回です。50mの選手には高重量を求めますし高重量トレーニングは好きなようです。それが災いしてか、見ていないところでマックスをしょっちゅうやるようです。「昨日何kg上がりました」と言ってきます。ウエイトを一生懸命行ってくれるのはいいことなのですが・・・・

下半身は何かしらの理由でやりたがらないですね。とくにパラレルスクワット10RMなど。レース前の測定以降は、腰の障害のことも考えてハーフスクワットに切り換えてしまいます。さらに高重量が扱えるという利点もあります。そうするとスクワットをやりがらない選手もやりますので、よい部分ではあるのかなと思います。

パラレルとハーフでは筋量の差も出てくるし、筋出力が変わってくると思います。ただ、ベンチプレスではゆるいというか、高重量のときはチーティングをOKにしているのです。それはある意味テクニック、スキルや巧緻性の部分を見ているのです。ただ、最低限のルールとして殿部はつけておくというようなことを規定しています。

ブリッジがうまい選手、下手な選手で変わってきます。それがパフォーマンスにつながってくる。やはりチーティングがうまい人は泳いでいてもいいパフォーマンスが出ています。

身体の使い方がうまいと思うのです。懸垂も測定項目に入れているのですが、それは参考記録です。テクニックで全然変わってきますから。筋力も強くて使い方がうまいと記録が出ます。

選手へのフィードバック

累積のデータとチーム内の位置が出てくるわけです。さらに上半身の筋力を上げればパワーも上がっていくと。そうすれば累積の数値が上がっていることも評価の対象ですので、そのあたりも重要視しています。

私はやっぱりパワーですね。パワー値が高いほど、パフォーマンスと関連するかなと。筋力は高いけどパワーが低い選手は、技術的なところ、身体の使い方が悪いのかなという評価をしていきます。

目標値の設定

明確な数値としては出していませんが、50mメインの選手に対しては「ここで上げよう、結果を出そう」と絶対値を示します。一方で、普段は8RMくらいでトレーニングをしていますのでだいたいわかります。でも測定のときには一発勝負だから5kg10kgは上がると思うんですね。それで毎回5kg上げたり。もしくは、同じ10RMの重量でありながら、測定のときに15回上げられたのであれば普段のトレーニングをサボっているのかな、というような評価の手段としては使っています。どうしても8RM10RMでは何度もできません。1回決めた重量で、限界までいかせます。選手によっては誤差が出ますが、以後のトレーニングにはつなげられます。

性格的にサボる選手は、測定のときにも明らかに追い込んでいないことがわかります。

RMのときに9回や10回が出ている選手は、きっちりしているのです。

長澤:ちょっと自己満足で、10RM3セットやっているから怒られないだろうと。ちょっと自分に甘いタイプ。

毎回レースの記録が出てくるので、自己ベストが出た選手については評価します。選手にとってはそれが目標なので、そのベストが出た選手に対してはアプローチします。「トレーニングがきつくて、テーパリングをしていない時期にもかかわらず、記録が伸びているね。テーパリングをしていけばさらに伸びるはず」とモチベーションを上げるようにしています。記録を自分から言う選手もいますが、言わない選手もいます。それに一言、言うだけでもモチベーションが上がるようです。

失敗してしまった、やってみたけどいまいちだったということはありますか?

長澤:マシーンでのレッグカール、レッグエクステンションはあまりよくありませんでした。筋バランス(左右差、前後差)を見たかったのですが、マシーンによって数値が変わるので信憑性が低いということと時間がかかり過ぎるため。ベントオーバーロウも、フォームが難しく、体幹の支持力の影響が出るのでちゃんとした数値が出ないかなと思ってすぐに辞めてしまいました。

測定項目を削ることは重要です。プログラムをつくるときも、何をやらせるかというより何を削るかが重要です。いかに選手に負担をかけずに測定をするかが重要です。

測定の位置づけ

――測定をすることの意味、位置づけをどこにおいていらっしゃいますか?

長澤:モチベーションを上げることと、トレーニングの進捗と成果の確認の意味が大きいと思っています。その効果がパフォーマンスに出ることが最大の目的になってくると思います。結果、とくにパワー値がよい選手はよいタイムが出ていますので、全てが直結しているとは思いませんが、少しはよい方向に向かっているのかなと。選手自身も、パワー系の種目を入れると実感できるようで、その点でもよいかなと思います。



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